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最先端の日本酒と料理のペアリング
※20歳未満の者への酒類の販売はいたしておりません。
日本酒の味わいを表すときに「辛口」「甘口」という表現を使うことがよくありますが、そもそも「辛い」日本酒ってどんな日本酒なのでしょうか?辛さの正体がわかるだけでも、自分に合った好みの日本酒にきっと出会いやすくなりますよね。
今回は、「辛口」の日本酒とはどのような日本酒で、甘辛はどのようにして決まるのかについて紹介します。
日本酒の辛さは、「日本酒度」という指標で測ることが一般的です。日本酒度とは、もともとは飲み手がみるための指標ではなく、造り手が醸造のために使う指標です。清酒に含まれる糖分などのエキス分の割合を示しており、日本酒度計というものをお酒に浮かべて測ります。お酒が発酵すると、酵母が糖をアルコールと炭酸ガスに分解していくため、発酵が進んだ(糖分が少ない)日本酒は甘味が少ない、つまり辛口のお酒になります。ここでいう辛さとは唐辛子のような辛さではなく、単に甘くないということを表しているのです。
日本酒度計は、アルコール度数が同じ場合、お酒に含まれる糖分量が多いほどマイナス(-)に傾き、少ないほどプラス(+)に傾きます。ちなみに、一般酒の平均は+1.5だといわれています。大まかな分類としては、日本酒度が-3.5から-5.9が「甘口」、-1.5から-3.4が「やや甘口」、+1.5から+3.4が「やや辛口」、+3.5から+5.9が「辛口」とされています。中には、「大辛口」といわれる日本酒もありますが、その場合、日本酒度は+10を超えることもあるそうです。
出典:佐藤成美『おもしろサイエンス お酒の科学』
ところが、日本酒度の高いお酒が必ずしも「辛い」わけではありません。たとえば日本酒度+10以上の大辛口のお酒でも、ひとによっては辛いと感じなかったり、同じ日本酒度のお酒で比べても、甘さと辛さがひとによって感じ方が変わったりします。日本酒度は辛さを決定づけるものではなく、あくまで辛さを見積もる上でのひとつのものさしとして捉えておくくらいが良いと思います。
では、辛さと甘さを左右する要素はほかになにがあるのでしょうか。一般に「辛い」お酒というのは、甘味の多さだけでなく、キレが良いといった意味も含んでいますが、お酒の甘さや辛さに影響する要素としてもうひとつ代表的なものとしては「酸度」があります。
酸には、穏やかな乳酸や旨味を含むコハク酸、またさわやかなリンゴ酸など多くの種類にわかれます。同じ日本酒度でも、下図のように酸度を調整することで辛口が甘口風味になったり、甘口が辛口風味になったりします。一般に、酸度が高くなると味が濃く感じられるため、その分、舌で感じる甘味が隠されて辛口に感じることが多いです。
出典:佐藤成美『おもしろサイエンス お酒の科学』
また、ヒトの味覚とは面白いことに、「香り」によっても感じる辛さが変化するともいわれています。たとえば、バナナやりんご、ライチなどの華やかで甘みのある「フルーティ」な香りを加えると、辛口なお酒がなめらかな口当たりになったり、吟醸酒などに現れやすい柑橘系の酸味が強いスッキリとした印象の「さわやか」な香りを加えると、甘口に若干の辛味が加わったりと、ヒトによって感じ方が変わるようです。
もっといえば、照明の色や酒器によって、感じる甘辛具合が変化する場合もあります。同じ日本酒でも、五感の刺激を変えるだけで味わいが変化するという、なんとも奥深い世界なのです。
ここまで見てきたように、日本酒の辛さや甘さ、ひいては味わいは、飲み手を取り巻くいろんな要素が複雑に絡み合って形作られます。ヒトの味覚は十人十色なので、一概に「このお酒は辛口で、あのお酒は甘口」というように決めつけることは難しいのです。
そんな中、日本では1960年代から「辛口のお酒=旨い酒」という価値観が流行り始め、多くの飲み屋で「日本酒ください!辛口でおまかせ!」という声が飛んでは店主を困らせていました。流行の火付け役となったのは、当時の「菊正宗」のテレビCMでした。「最近は甘口の酒が多いとお嘆きの貴兄に、 辛口の「キクマサ」を贈ります。」というコピーは、他者よりも優位でありたい働き盛りの男性心理をうまく突いたのです。当時はほかのメディアでも「男なら辛口」「男は辛党で女は甘党」といった価値観が多く発信されていました。
このような価値観はいまでは少し薄らいできているようにも感じますが、「日本酒なら辛口で」といったような辛口神話は、この流行がきっかけで定着したと考えられます。
昨今は、日本酒造りの作業環境が格段に良くなってきたおかげで、味わいも多様化・複雑化してきました。当時ほど「辛口でおまかせ!」と注文されるケースは減ってきたのかもしれませんが、辛口注文は現代の方が店主にとって難題なのかもしれません。
「辛口」と一言で言っても選択肢の幅が広すぎるのと、実際試飲した結果、お客さんが辛口以外のお酒を選ぶケースも多いようです。
ここでいう「甘辛」で求めるイメージをお店のひとに伝えるためには、味わいのすっきりした「軽め」のお酒が良いか、それとも味がしっかりと感じられる「重め」のお酒が良いか、といった尺度の方が比較的齟齬なく伝わりやすい表現になると考えられます。
ただ、先に述べたように、その尺度だけで好みのお酒の特徴を語りきれるわけではないので、試飲を重ねながら店主や飲み仲間とイメージをすり合わせていくのがベストでしょう。
以上、日本酒でよく使われる「辛口」「甘口」という表現について詳しく紹介しました。いかがでしたでしょうか。
日本酒の味わいを表す表現はたくさんあるので、いろんな種類を飲んでみながら自分に合うと感じたお酒の特徴から表現を学んでみると、きっとお店でも良い日本酒との出会いが生まれやすくなるでしょう。